(平成16年7月報告)
登録いただいた症例の安静時12誘導心電図(非発作時、最も典型的なECG)について、患者背景を知らない3人の当研究会事務局員が以下の項目について計測し、3人の平均値を有症候性群(失神発作歴、VFあるいは心停止の既往のある症例)と無症候性群の2群間で比較検討しました。
計測項目
1. r-J 間隔、2. J amplitude、3. T top amplitude、4. r-T top 間隔、5. r-T end間隔、6. r’間隔、7. P波幅、8. PR間隔
r-J 間隔: r波からJ点(S波以降の最初の最も高い点)までの間隔 (msec)
J amplitude: J点の基線(P波開始点間を結んだ線)からの振幅 (mV)
T top amplitude: T波頂上点の基線からの振幅 (mV)
r-T top 間隔: r波からT波頂上点までの間隔 (msec)
r-T end間隔: r波からT波終了点(接線法で接線と基線の交点)までの間隔 (msec)
r’間隔: J点直後にr’波からST部分に移行する変曲点(上に凸から下に凸へ変化)が可視可能な場合、J点からその変曲点までの間隔。
0.02 sec以下、0.02-0.04 sec、0.04 sec 以上の3つに半定量。
上記6項目についてV1,V2,V3誘導にて各々計測。
第II誘導にて、7. P波幅 (msec)、8. PR間隔 (msec)を計測。
また、左側胸部誘導の代表としてV6にてQRS幅(msec)とQT 間隔(QRS開始点からT波終了点までの間隔、msec)、さらにS波幅を0.02 sec以下、0.02-0.04 sec、0.04 sec 以上の3つに半定量化して計測しました。
r-T top 間隔、r-T end間隔、QT 間隔については、x 1/√RR間隔で補正した補正値も計測しました。
結果
登録全症例数:123例(平均年令53±13歳、男性111例、女性12例)
解析症例数:105例(平均年令54±13歳、男性99例、女性6例)
有症候性Brugada症候群:58例(平均年令51±14歳、男性55例、女性3例)
無症候性Brugada症候群:47例(平均年令55±13歳、男性44例、女性3例)
解析結果につきましては、各々の項目ごとの解析データー分布図(図1-6)を添付いたしましたので、御参照いただければ幸甚です。
結果をまとめますと、全症例の検討では、有症候性Brugada症候群症例では、無症候性症例に比べ、V1,V2でのr-J間隔が有意に延長。V3でのr-T end間隔、補正r-T end間隔が延長、V6でのQRS幅とS波幅が有意に広いという結果でした。
次にV1, V2誘導においてST上昇の形態(coved型かsaddle-back型か)によるサブ解析を行いました。各群内でcoved型とsaddle-back型の比較、またcoved型の症例間あるいはsaddle-back型の症例間での有症候性群と無症候性群の比較検討を行いました。
これらの解析結果につきましても、各々の項目ごとの解析データー分布図(図7-18)を添付いたしましたので、御参照いただきたく存じます。
サブ解析の結果をまとめますと、coved型とsaddle-back型の比較においては、有症候性Brugada症候群症例では、coved型の症例はsaddle-back症例に比べ、心室の伝導遅延と再分極異常が、無症候性症例では、一部の再分極異常がcoved型の症例でより顕著でありました。Coved型の症例間での有症候性群と無症候性群の比較では、有症候性群で心室の伝導遅延、再分極異常がより顕著でありましたが、saddle-back型の症例間での有症候性群と無症候性群の比較では、両群間で有意差を認めませんでした。
以上の結果より、有症候性Brugada症候群症例では無症候性症例に比べ、心室の伝導遅延(脱分極異常)がより顕性化していると考えられました。coved型の症例ではさらに再分極異常も顕性化する可能性が示唆されました。
今後の検討課題ですが、J amplitudeが0.2mV以上の症例と0.1-0.2mVの症例での比較検討等のサブ解析を予定しておりますが、未だ症例数が少なく、今後さらなる症例の積み重ねが必要と思われます。
本研究会では、Brugada症候群を含む特発性心室細動に関する成因、病態、診断と心室細動発作のリスク判定、治療法の開発、予後調査などを全国レベルで数年間にわたり継続的に行い、Brugada症候群及びその類縁疾患についての本体解明に迫りたいと考えております。
今後とも症例の御登録等、当研究会を御支援いただきます様何卒お願い申し上げます。
データ
(文責 高木雅彦)
平成16年7月
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